diary

かきたいことを、かきたいときだけ、かきたいように

明日も明後日も

 

 

慣れないことをして疲れ切った身体を起こしてくれたのは、愛おしい犬の声でも大切な人の手でもなく、不意に鳴った着信音だった。

懐かしい声につられ、私はあっという間に学生時代に戻る。今何してるのという問いにもまともに答えられず、繰り返されるふざけた酔っ払い達とのやりとりに、あの頃と同じ銘柄のタバコに火をつけた。

本当は外に出てしまいたいぐらいの気持ちだったけど、その会話の一部一部につまらない大人の事情が垣間見えたからやめた。

久しぶりに会いたいね、いっその事こと7人で集まりたいね、なんて夢の話かもしれない。だって私達は、いつだって喧嘩したり不機嫌になったり言い合いしたりして、楽しい思い出がバラバラだった。

めんどくさいと文句しか言わない彼女。闘争心剥き出しの彼女。音楽の事しか話さない彼。本当はつまらなかったという彼。社交辞令で誘いを断る彼女。実はほんの少しだけ好きだったソウルメイトの彼。本当に自由人ばかりでまとまりのない7人だった。

そんな7人なのに、卒業式もディズニーランドも毎年のキャンプも一緒に過ごした。毎回険悪になるくせに。誰かが何かを提案しても文句しか言わないくせに。終わった後誰かしらが誰かしらの愚痴を言っているくせに。

なのにどうして、私はみんなの笑った顔と声しか思い出せないのだろう。なんで会いたいと思ってしまうのだろう。

 

 

近頃の私はなんかちょっとおかしくて、今まで毛嫌いしていたエモい恋愛映画をよく見ている。ちょうど昨日は、ボクたちはみんな大人になれなかったを見ていたから、電話を切った瞬間にセンチメンタルになった。

普通じゃ生きられなかった私が、普通を嫌いになって、普通だった事に気づいて、普通を選んで生きている。私は佐藤ほど引きずる恋愛はしていないけど、今すぐ夜中の渋谷を走り出したくなった。夜中の渋谷ってエモい。

普通じゃない人間になりたかった7人は、普通に出会って、普通に学生時代を楽しんだ。それはきっと普通じゃない、特別だったと今は思う。

走り出せない私はもうとっくに普通で、そこから抜け出したいのかも分からず、ただただ日常を過ごしている。分からない事が多すぎて、人との接し方も忘れたから、もう私は限界かもしれない。昔にすがるわけではないけど、私は昔に何かを忘れてきてしまった気がする。だから今会えたら何を話そうか、何か話せるのか、そんな事まで考えてしまう、なんて。

 

 

今日、縁があって久しぶりに舞台へ立った。袖で話すだけだったけど、舞台の天井はあの頃より高く見えた。舞台に立つ人の姿さえもあの頃より輝いて見えて、私はもう観客でしかなかった。

あの聞き慣れたギターの音と煙たい空気の中で、またあのぐらい笑えたら、何を忘れてしまったのか思い出せるだろうか。渋谷を走らなくても私は今を生き抜けるだろうか。